循環器内科 診療部長 東方 利徳
医療者として人として地域とともに
小松市民病院は人口22万人の南加賀医療圏における中核病院であり、二次救急医療機関として、24時間365日、多くの救急患者を受け入れています。その中心的な役割を担っている診療科の一つが循環器内科です。2020年に地域医療支援病院の承認を受けたことにより、地域の医療機関との連携をさらに強化、医療スタッフ一人ひとりが高い意識を持って、クオリティの高い医療サービスの提供を行なっています。
循環器内科の診療内容や地域での取り組み、ご自身の循環器医療に対する思いについて、診療部長である東方利徳医師にお話を伺いました。
中核病院の循環器内科だからこそ遂行しなければならないこと
中核病院の循環器内科といえば、救急疾患の受け入れに尽きます。当科では常勤医師5名のうち4名は30歳代までの若手から成り、一刻を争う急性心筋梗塞の受け入れる体制を365日24時間整えています。医師は連日2名が日当直またはオンコール、臨床工学技士、看護師も同様にオンコール体制をとっており、常時緊急PCIの実施が可能です。重症例には補助循環治療等の高度医療を実施し、救命率向上に努めています。
長年の現場の統括経験を活かし、私自身、現在もオンコールに入り、後進の指導に注力しています。特にST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)においては、冠動脈閉塞箇所の一刻も早い再灌流が患者さんの予後を大きく左右するため、来院から再灌流までの時間(Door-to-Balloon time)の短縮を常に意識して対応に当たってきました。コメディカルスタッフとも意思統一を図ってきた結果、過去6年間で中央値の12分短縮を果たしています。そして現在も、保険診療上の目安となる達成目標90分から、さらに30分短い60分を目標に、日々取り組んでいます。
限られた医療資源や困難な環境でも
心臓カテーテル検査・治療に不可欠な血管造影装置は2基配備されています。1台は循環器専用ですが、もう一方の汎用型血管造影装置にも2018年冠動脈造影が可能な機能を追加したことで、‘待ったなし’の心筋梗塞の緊急PCIに威力を発揮しています。
一方で、‘心臓血管外科の併設なし’‘独立した救急診療科なし’‘医療圏内に3次救急病院なし’といった困難の多い医療環境にあることも事実です。急性大動脈解離や緊急バイパス術を要するような冠動脈疾患、心臓弁膜症のカテーテル置換術等は、適切かつ迅速な判断のもと金沢市の高次医療機関への紹介や転送に努めています。
治療成績の検証と全国への発信が大きな励みに
地域医療を全うしつつも、過度に「内向き志向」に陥らず、自身のモチベーションを向上させてきた取り組みとして、自施設の治療成績の検証、およびその発表があります。具体的にはPCI実施例の長期予後の集計や、使用したステント間での比較、脂質管理の影響などを、全国規模の学会で発表してきました。
大学病院など研究機関や大規模施設からの応募が主となる日本循環器学会年次学術集会では、地方の自治体病院ながら10年間で10演題が採択され、うち4題は英語口述発表を果たしました。また、日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)の年次学術集会では、10年間でパネリストを含む11演題で全て口述発表(発表言語も全て英語)してきました。高難度病変に対するカテーテル治療においてで工夫してきた手技とその成果を、自ら検証することは、自施設の治療成績が多施設研究で報告されてきた標準的成績と遜色ないことを確認する意味もあり、大きな励みとなっています。
医師としての成長過程で大きな影響を受けた二つのこと
ささやかながら、医師としての成長過程で大きく影響を受けた経験二つがあります。
一つは出身大学である金沢大学で最初に師事した恩師 馬渕 宏 先生 のもとでの研鑽です。「家族性高コレステロール血症(FH)」の診療と研究において、現場で行われている医療とその根拠となった医学研究のつながりを、患者さんを通じて実感できる環境に身を置くことができました。このことは、自身の医療への関わり方や発想に大きく影響し、代え難い財産となっています。
もう一つは、今から24年前に遡りますが、冠動脈インターベンション治療(PCI)の国内臨床留学です。天神会 新古賀病院(福岡県久留米市)で、PCIの研鑽を積む機会をいただきました。約半年の期間ではありましたが、そこで目にした、 「ハイボリュームセンター」において繰り広げられるハイレベルのPCIの数々は、ある意味カルチャーショックでもありました。以降20年以上にわたって普及・進歩を続けて行くPCIの技術と、それを遂行する人的物的医療システムは、10年、いや20年先を行っていたと、今でも感じます。留学を終え、現在の勤務先に戻った後は、そこでの経験を活かすべく、循環器内科の診療や、PCIをはじめとした心臓カテーテル検査・治療に真摯に向き合ってきました。同院とは現在でも、困難例への対応に指導や協力をいただく関係にあり、自身を向上させる原動力となっています。
生まれ育った地域に貢献しながら自分自身を向上
当院で勤務を始めてから延べ29年、になります。我々の若い頃は、医師はそれぞれの専門性を延ばしてスキルアップする志向を持つ人が多かったように思います。消化器内科であれば内視鏡、循環器内科ならカテーテルのエキスパートになることがひとつの目標で、それらの医療技術だけに「特化」し、立ち位置を得ることが‘成功’とも考えられがちでした。かつては、私自身もそうであったように思い返されます。しかし、そのような風潮は普遍性を伴ったものではなく、中核病院に勤務する医師に求められる能力や人間性は、時代とともにより高次元のものとなり、医師側の志向や人生観も多様化してきたように感じます。
現在の勤務先である小松市民病院は、地方の非県庁所在地医療圏の基幹病院であり、地域社会の医療需要に対して、マンパワーや医療資源が限られているという環境にあります。自分の立ち位置を考えた場合に、何かに特化した専門家になることを、自分の成功や到達目標とすることに、違和感を覚えはじめました。私自身、小松市と隣接する能美市出身ということもあり、いつしか、生まれ育った地域で医師として社会に貢献しながら、専門性も含めて自分自身を向上させてゆきたいという 「マインド」に変化していきました。
地域医療支援病院としての使命感で意識が向上
この30年ほどの間に、医学や医療技術の進歩はもちろんですが、医療・介護の制度や地域連携の仕組みが大きく変わりました。南加賀医療圏においてもそれが浸透し、各医療機関の立ち位置と役割が明確になってきたように思います。その中で当院は、2020年「地域医療支援病院」の承認を受けました。これが良い契機となり、病院の使命を自覚し、地域においてふさわしい役割を果たすべく、職員全体の意識が高まっています。「紹介患者さんをまず引き受ける」「急患をまず受け入れる」という、自分の働いている病院の自負や責任感が自然に意識づけられるようになったと思います。
さらに自身の領域においては、2018年の「脳卒中・循環器病対策基本法」成立を受け、2022年院内に「循環器病委員会」を設立しました。脳卒中・心臓病を包括する 「循環器病」の医療連携や啓蒙活動に組織的に取り組んでいます。委員会は循環器内科医、脳神経外科医のほか多職種のメディカルスタッフで構成され、「石川県心不全地域連携パス」の導入・運用や、脳卒中・心疾患に関する勉強会を定期的に開催し、循環器病の情報を多職種間で広く共有し、院内外の連携の強化に努めています。また今後は、市民公開講座などの一般市民の方に向けての活動にも力を入れ、地域に貢献してゆく所存です。